魔女

昔々、魔法使いになれると信じていた女の子は、「ひみつの あっこちゃん」のコンパクトを買って貰い、おばあちゃんの家の玄関の隅で、誰にも見られないようにこっそり呪文を唱えました。
「テクマクマヤコン テクマクマヤコン・・。おひめさまにな~れ」
コンパクトには、相変わらずの、刈り上げおかっぱ姿の女の子が・・。
もっとおおきな声じゃないと効かないのかと、少しさっきより大きい声で唱えました。
でも、やっぱり、おかっぱの刈り上げ姿で悲しそうにコンパクトを覗き込んでいる姿が映るだけ・・・。

その日から、うん十年の時が過ぎ、、、、

その女の子は、とうとう魔女になりました。

「せんせいって、まじょなんやろ??」
「ん??そうそう。せんせいは、まじょよ。どうしてわかった?」
「だって、このまえいいよったやん。」
なんだか、うっかり正体をばらしていたようです。
「だれにも内緒よ。魔法使いのおばあさんから、ばれたら魔法を取り上げられるから・・。」

翌日、申し訳なさそうに、「せんせい、ごめん。ママにだけ、せんせいはまじょってばらしてしまった・・・。」と、とぼとぼと・・・。
「大丈夫よ。ママなら。」と伝えると、ぱっと顔が輝き、「もう、こんどから、だれにもいわんけ」と走り去って行きました。

あっという間に、魔女だという正体は知れ渡り・・・。

幼稚園のチャボさんの羽根は、魔女の羽根・・・。
拾ったお友だちは。「せんせい!!!はい!はね。あとなんまいで とべる?」
「7枚あれば飛べるから、あと2枚かな」
こんなやりとりをしながら、10年近い月日が経ちました。日々増えていく、チャボさんの羽根・・。

ある年は、幼稚園の園庭の階段で、魔女になる為に、ほうきで飛ぶ練習をする年長さんの姿が・・。

また、ある時は、
「せんせいは、どうやったら まじょになれた?」と魔女になる方法を聞かれたり、困ったときや、探し物をする時などに、「せんせい、まほうで なんとかして!!」と助けを求められることも・・。

子どもたちの世界には、なんの不思議もなく、魔女や、空飛ぶほうき、おしゃべりするうさぎや、「いたいいたい」と泣くボール・・。大笑いするカブトムシ。
仲良しのナメクジが暮らしています。そこは、広く、枠組みが自由で、私たちの想像を遥かに超えています。

そして、「せんせいはまじょ」という秘密を共有するゾクゾク感を楽しんだり、年長へと成長していくと、「まじょとか、うそにきまっとるやん!!」なんて否定してみるものの、やっぱり、「ほんとかなあ」と心が揺れたり・・。子どもたちの成長と共に、魔女も変化していきます。

いつものように、羽根を持ってきてくれた女の子に、言いました。
「お月様が綺麗な夜は、空を見てね。先生、飛んでるよ・・」
「うん!!わかった。みえるかなあ。」
「大丈夫。見えるように飛ぶから!!」そう言って別れました。

翌日、「せんせい、ごめんね。おかあさんから、早く寝なさいって言われた。」

そ、そうです。早寝早起き!!たいせつです・・!

写真