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永井 均『翔太と猫のインサイトの夏休み 哲学的諸問題へのいざない』(ナカニシヤ出版) 紹介者:播磨桂子(11/06/01)

紹介者:播磨桂子

「考える楽しさへのいざない」
 子どもの頃、ピアノを習っていたのですが練習熱心な生徒ではありませんでした。週一回のレッスン日の前夜になっておもむろにピアノの蓋をあけ、ツェルニーの練習曲に四苦八苦。母に「もう夜遅いから止めなさい」と止められる。「だって、明日ピアノの日やもん」と抵抗するも、「前の日になって慌てて練習するけんやろうが(練習するからでしょう)」と叱られ、すごすごとピアノの蓋を閉じるしかありません。

 翌日、ピアノの先生のまえで弾く曲はさんざんの出来で「練習してないわね」と言われます。「前の日だけ慌てて練習してもだめなのよ」...どうして前の日に慌てて練習したことがわかるんだろう?!

 練習していないことがばれるのはまあ当然ですが、前日に慌てて練習したことはわからないはず。ひょっとして母が言いつけたのだろうか。いや、もしかすると母と先生は同一人物なのかもしれない。いやいや、自分以外の世界中の人は皆、通じている一味なのかもしれない!

 もちろん本気でそう思ったわけではありませんが、考えてみると自分以外の人が自分と同様に個々の意思を持つ「自分」であるかどうか、というのは知りえないのです。

  私が「私」なのはどうしてだろう。他の人と私が見ているものは同じものなのだろうか。
  宇宙の果てはどうなっているのだろう。果てがあるとすればその外側は?

 そんな、気が遠くなりそうな「謎」に頭を悩ませたことはないでしょうか。『翔太と猫のインサイトの夏休み 哲学的諸問題へのいざない』では、翔太と猫のインサイトが議論を交わしながらこのような問題について考えていきます。このインサイト、デカルト、カント、ウィトゲンシュタインといった哲学者の思想を紹介してくれたりもするのですよ。

 ところで「翔太」って誰?「インサイト」っていったい何者?これが短い最終章でわからなくなるのです。読者として「哲学的諸問題」にいざなわれてきた私やあなたが、自分自身で考え続けざるをえなくなる仕掛けでしょうか。

 10年ほど昔、図書館でうろうろしているときに偶々手にしたこの本、読んでみて「私にぴったり、すごい。」とワクワクしました。しかし、偶然出会えないままの「私にぴったり。」な本が世の中には山ほどあるような気がしてなりません。

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