
塚本邦雄―『俳句への扉』 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ巻 紹介者:島田裕子(10/12/16)
紹介者:島田裕子
鵙が来て夢のつづきの枝揺れる 林田紀音夫逢いにゆく疎遠のはての鵙の昼 赤松薫子
うすうすと放浪の日や冬の鵙 橋本義憲
短日の木鳴る村なか通りけり 新谷ひろし
山茶花の深夜眞盛り僧読書 加藤知世子
女家族は紙屑多し山茶花散る 中村草田男
上の俳句は、塚本邦雄の『華句麗句―俳句への扉Ⅱ』(毎日新聞社刊)の12月初旬のページから引いたものである。塚本邦雄は、戦後、前衛短歌運動の旗手として岡井隆とともに現代短歌を牽引してきた巨星であった。また歌人であるとともに俳人でもあった。塚本邦雄が編んだ俳句歳時記3部作『俳句への扉』はⅠ巻『句句凛凛』、Ⅱ巻『華句麗句』、Ⅲ巻『句風颯爽』から成る。
博覧強記の歌人、塚本邦雄の審美眼で集めた四季折々12カ月の俳句とエッセイ、偉人誕生日、古今の秀歌が並んで書かれている。暦のように時候に合わせてページを開くと、その季節の俳句やエッセイ等が並んでいる。読んでいるうちに、少しずつ日常の時間軸がずれていき言葉がつむぎだす異空間が広がっていく。色褪せてくぐもってしまった日常が一瞬にして鮮やかに動き出すこともあるから、寒々しい冬にはお勧めの本である。塚本の『俳句への扉』Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ巻はいずれも、あらたな創作のために作られた歳時記という編集の仕掛けがしてあり、私はこの歳時記からインスピレーションを得て歌を詠みはじめ、詠み続けてきたような気がする。しばらく読むことのなかったこの本をあらためて開くと、なにか心がさわさわと揺れ始める。俳句を読み味わうには、読み手の解釈力、感受性や経験等に多く委ねられる。これから先は、あなたお好きにお読みくださいませ、という大様な短詩である。だからこそさまざまな〈気色〉や〈ものがたり〉が浮かび広がってくる。そこを掬い取って、読み手一人一人が17文字の詩が放つ〈ものがたり〉を想像しあらたに創作していく。『俳句への扉』Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ巻は、そんな俳句の魅力をぐいと引っ張り出して、俳句に心遊ばせコラボする楽しみを教えてくれる贅沢な歳時記である。
*塚本邦雄(1922~2005) 滋賀県生まれ。商社勤務を経て執筆業、大学教授。
前衛短歌運動を興した中心的人物。中世和歌・斎藤茂吉等々の研究鑑賞がある。歌集は『日本人霊歌』など多数。
右上の画像は塚本邦雄氏直筆。
































