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丸山真男『日本の思想』(岩波新書:1961年)紹介者:宮崎勝弘 (09/11/19) 

紹介者:宮崎勝弘(文学部教授:地域社会論)

 岩波書店が各界で活躍している方々を対象に行ったアンケートで、岩波新書の中で最も多く挙げられたのがこの一冊だ。本書は「あとがき」にもあるが、論文体の「日本の思想」、「近代日本の思想と文学」と、講演体の「思想のあり方について」、「「である」ことと「する」こと」の四つの文章からなっている。決して取っ付きやすくも、易しくも、ない。論文体のものは特にそうだ。しかし、しばしば、考え込んだりハッとさせられたりする。そして私に関していえば、大きくうなずく。
 「およそ理論的なもの、概念的なもの、抽象的なものが日本的な感性からうける抵抗と反発」というくだりに出会ったとき、私は自分がそのレベルにないことは知りつつも、親も手を焼いたこの「理屈屋さん」が、世間からなぜ少数・反対派として異端視されるのかが分かった気がした。それを機に一連の著作を読み、学生時代、サークル誌に小さな「丸山真男論」を書いたことを思い出す。
 丸山真男。半世紀近くの前の本を持ち出して、またか、と言われそうだ。本人が最も望まないことなのだが、教祖化しその著作は聖典化の様相さえある一方、最近は「「丸山真男」をひっぱたきたい」という物騒なコピーも話題となった。
 にもかかわらず、である。いや、「戦後」の起点が曖昧となり、今日の政治的、社会的、文化的混迷を見れば、だからこそ、といいたい。丸山真男は過去のものなのか。折りしも、後継者によるNPO法人「丸山塾」開設が伝えられるなど再評価の動きも見られる。批判、反発するにせよ、敬愛するにせよ、読まなければ始まらない。
 丸山真男とはどのような人なのか。一般的には、政治学者であり思想家であり、論壇をリードした「戦後の代表的知性」とされている。少し踏み込むとこうなる。後継者のひとりは、今夏の講演で「戦後にいやしくも社会科学を志した人々は、丸山さんが戦後書き換えた枠組み・文法にそって学問をしているという意味で、「丸山真男」の子なのです」(川原彰)と述べている。これで学術分野でのおよその位置がわかる。「日本の思想」とともに代表的著作である「超国家主義の論理と心理」については、「戦後日本の思想的出発点を築く記念碑的作品」との評価が高い。
 そこで「日本の思想」である。著者は、日本的な感性が宿る「実感信仰」を問題にしつつ、「歴史的現実のトータルな把握という考え方が、フィクションとして理論を考える伝統の薄いわが国に定着すると、しばしば理論(ないし法則)と現実の安易な予定調和の信仰を生む素因となったのである」として「理論信仰」の発生を取り上げ、その対比を鮮やかに描き出している。「実感信仰」と「理論信仰」という言葉は当時、日本の精神風土、文化土壌を考えるキーワードとして話題になった。
 この本は、日本の思想の特徴として、座標軸が欠如していること、そのことと関連して「雑居性」を指摘している。これを手にしたら、独創的で新鮮な内容を学ぶとともに、その社会科学的な捉え方の底に流れる確固たる思考方法を読み取ってほしい。それは、矛盾や対立を安易に止揚することを厳しく戒め、緊張関係としてしっかり見据えるべきであるという態度である。さらにまた、「同質、同調、一元化」というこの国の文化の特質をあぶり出すことから、日本文明批判としても読まれる。
 いま、世界は大きく動いている。日本もむろん、その例外ではない。未来を考えるためには過去を知らなければならない。いや、政治や社会を支える文化の根っこ、構造を掴む必要がある。そのためにも本書を読んでほしい。

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