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    佐藤泰正(近代文学)    公開セミナー


(店   名)  仏蘭西軒 / フランス料理
(道 案 内)  JR小倉駅より徒歩5分
(連 絡 先)  北九州市小倉北区鍛冶町1-4-12 / 093-531-0618
(定 休 日)  日曜日
(営業時間) 17:30〜20:00
※ 営業時間などは変更の場合もあるので、問い合わせのこと。

私はね、下戸なの。酒が飲めないわけね。小林秀雄のような酒飲みに言わせれば、酒を飲まなきゃフグのおいしさだって何だってわからないってことになるけどね。でもお酒は飲めないけど、味については自分流に好みがあると思ってるの。
仏蘭西軒はね、フランスに留学しておられた先生から教えてもらったの。北九州の方だから、たまたま仏蘭西軒に行った。そうすると、エスカルゴね、フランス料理の目玉。これが飛び切りおいしかったのね。フランスで食べたもの、東京の一流のフランス料理の店で食べたものに劣らないぐらいすばらしい。こういうものを食べさせてくれるところがあるって、紹介してもらったの。
それから行きはじめたから、もう何年前でしょうかね、十四、五年か二十年ぐらいかな。おいしいんですよ。そしてねえ、常連客には、クリスマスの頃一週間ぐらいの間に特別招待があるの。それは損得抜きね、日ごろのお客さんへのサービス。このときはねえ、すごいよ。キャビアとかとびきりいいやつ、その季節の本当に第一級の品を集めて。家内と一緒に行ってたんですがね、そのうち家内はぜんそくという病気を持ってるし、フランス料理はワインをたっぷり使うでしょ。そうするとちょっと、体に悪いって、行かなくなってね。それからも私は一人で行った。何故行ったかというと、そこのご夫婦がいいの。ご主人はいがぐり頭でね、寿司屋に入ったような気分になる。とってもキップがよくってね。しかも、わざわざ家内の展覧会を見に来てくれたの。下関の美術館で二度やったときに、二度とも日曜日、大事な休日をね、ご夫婦そろって見に来られたの。二度も来られたの。私は感激しましたね、お忙しいのにありがとうございますって。それで今度はそのお返しではないが、家内といけなくなっても私が行こうって思ったの。家内の展覧会は何年もかかった作品の発表会。仏蘭西軒のクリスマスのディナーもね、一年間の総決算で腕によりをかけて、上等の材料をたっぷり仕込んで、損得抜きでやる。ご披露する。これは一種の展覧会と同じ。だから、これにはつきあわざるを得ない。
ところがね、一人のクリスマスディナーは寂しいですよ。みんな家族とかカップルでしょ。その中にいい歳した男が一人でフランス料理食べてるってのは、おいしいけれどもわびしいのよ。あんまりわびしいから三年目ぐらいから、下のカウンターで食べたけどこれもわびしいよ。豪華なディナーをカウンターで一人で食べてる。そういうことを三、四回続けてね、これはもう続かないと思ってね、で、私は言った。「私はこうやって一人になっても来るのはね、あなたがまあ、家内の展覧会を見てくださった。これもあなたのところの言うならば、年に一度の展覧会。だから私はそういう思い」って言ったら、「ありがとうございます」ってわかってくれた。
で、なんとなく歳とともにこってりした西洋料理よりも和風のもののほうがいいって他の方になっちゃった。行かないけれども、素晴らしいものだから、梅光の学生にはもう長いこと、「仏蘭西軒はいいよ」って言ってたわけね。小林先生もね、まだ梅光に来られる前からよく知ってて、時々会ってたんですが、その小林先生がどこかで待ち合わせようっておっしゃるから、ああ、これは一度食事をしようと思って仏蘭西軒にって伝えたら、「仏蘭西軒てどこにあるんですか」って。「あなた、北九州の新聞社に何十年もおられて、仏蘭西軒を知りませんって…」。それじゃあって、教えて一緒に会食した。それぐらい宣伝は一切しないんですよ、あの店は。別に儲けなくったっていい。そういう生き方に僕は賛成でね。だから仏蘭西軒のことをあちこち宣伝したから、学生にとって仏蘭西軒は伝説になってるんですよ。ある卒業生はね、クリスマスのディナーのためにお金をたっぷり貯めて、何かの記念のときに行こうとかね、そう言う学生が多くなって…。伝説的になっちゃった。
でも、このごろまた行ってみようかという気持ちがちらちら起こって…。倉本先生がホームページでごひいきの店を紹介するっていうし、僕の中では仏蘭西軒がやっぱり一番だからね。それじゃあ、味がどう変わったか十年ぶりぐらいに行って見ようかと思って行ったのね。そしたら良かったのよ、やっぱりおいしかった。まず、スープがいいですね、コクがあって。それからメインディッシュは肉か魚かその時々の色々な料理をね。そしてそれにサラダがついて。最後はコーヒーとケーキ。ただそれだけのシンプルなコースだけどね。ああ、やっぱりいいもの食べたな、という感じがする。
そうそう、お店に佐木隆三さんの色紙があるのよ。「仏蘭西は近くにありて味わうもの」。これはご存知だとおもうけど、萩原朔太郎の詩の一節、「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し」(「旅上」)と室生犀星の「ふるさとは遠くにありて思ふもの」(「小景異情 その二」)、これのパロディね。おもしろいねえ。おいしいものを食べると、みんな幸せな気分になるのね。

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